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エッジコンピューティングは、データの収集、処理、転送の分野において、世界中で革命を起こしています。エッジコンピューティングが導入された当初はエッジからクラウドへのデータ転送を省略することが目的でしたが、現在ではそれ以上の目的を持って採用されています。特に、IoT(Internet of Things)の急速な普及と、リアルタイムでのデータ解析を必要とする新しいタイプのアプリケーションの出現により、エッジコンピューティングシステムの重要性と需要が高まっています。この記事では、エッジコンピューティングについて知っておくべきことをまとめます。
本記事のポイント
- エッジコンピューティングは、全ての情報をクラウドに集約してデータ処理を行う従来の方法に対して、コンピュータネットワークの末端(エッジ)部分でデータを処理する技術です。データ通信を減らすことで、ネットワークコストの低減と低遅延な処理の実現が可能です
- エッジコンピューティングは、クラウドコンピューティングに取って代わるものではなく、独自のメリットを提供しクラウドと共存する新しいソリューションの一つです
- デジタルトランスフォーメーションやSociety 5.0への取り組みが進む中、エッジコンピューティングとその関連技術は、ビジネスインテリジェンスを実現する上でますます重要な役割を果たします。
エッジコンピューティングとは?
エッジコンピューティングは、データ処理をデバイス本体もしくはデバイスから近い位置にあるエッジサーバで処理をする仕組みをとることで、低遅延かつ低負荷なデータ処理を実現する技術です。
エッジコンピューティングの概念は新しいものではなく、その起源は数十年前のリモートコンピューティングの考え方(リモートオフィスやブランチオフィスなど)にあり、中央の一カ所だけにデータや資源を集約して処理するよりも、必要な場所にコンピューティングリソースを配置した方が信頼性と効率性が高くなると考えられています。
従来は収集したデータをインターネット経由でクラウドへ送信し、クラウド上で分析・解析を行う中央集中型の仕組みが一般的でしたが、ネットワーク帯域幅の制限や遅延の問題、予期せぬネットワークの中断等、様々要因により処理に支障をきたすことがあります。
エッジコンピューティングは遠くのデータセンターに依存するのではなく、データを収集するデバイスやその近くでデータを処理します。これは主に処理の遅延を減らすためであり、特にリアルタイムの処理を必要とするアプリケーションでは、処理速度の面において大きな利点を得られます。例えば、工場で作業員が重機に接近した際にアラートを出すようなケースでは、現場の安全性を確保するためには数秒の遅延も許容されません。クラウドソリューションのように通信遅延を発生させてしまうと事故が発生してからアラートが発報されるような事態になりかねません。
エッジコンピューティング技術を使用し危険な状況をその場で検出すれば、クラウドを介してデータ処理を行うよりも、はるかに早く警告や機械の停止などの予防措置を開始することができます。
さらに、データ処理をその場で行うことで、ネットワーク帯域幅、データ通信量、ストレージ容量などのクラウド費用を削減することもできます。エッジコンピューティングを使い、エッジ側で処理、分析し、必要最低限の分析結果のみを外部のクラウドやデータセンターに送ることで、大幅なコストの削減が可能になります。
またセキュリティ面でのメリットとして、機密性の高いデータや機械学習アルゴリズムなどの情報はプライベートネットワーク内に残し、クラウドに転送しないという選択肢を取ることが出来ます。
エッジコンピューティングとクラウドの共存
エッジコンピューティングは、クラウドコンピューティングの代替ではなく、以下のような機能を提供する別種のソリューションと考える必要があります。
1. データ収集と集計
従来のクラウドアーキテクチャでは、すべてのデータをクラウドに送信し、クラウド上で処理を行いますが、エッジコンピューティングはデータ生成元の近くでデータを収集、処理します。エッジで処理しきれない場合、詳細な分析が必要な場合、またデータを長期的に保存する必要がある場合などにデータをクラウドにアップロードします。
2. ローカルなデータ処理
エッジコンピューティングは、サイズの大きいデータを処理する場合に特に適しています。大容量データの場合、エッジからクラウドへリアルタイムに転送することは不可能です。
3. AIがサポートするモニタリング
センサーやカメラからのデータや検知結果をクラウド側で収集し、評価、分析することで、対象データの継続的、効率的なモニタリングが可能になります。分析やアラートに機械学習アルゴリズム等を応用することで、AIを利用したリアルタイムの状態監視や予測も実現可能です。
4. M2M(マシン・ツー・マシン)通信
M2Mはデバイスやシステム間の自律的な通信と相互処理のことです。複数のエッジデバイスからのデータを中央のコントロールセンターで集約します。その情報をもとに遠隔地から現場の監視を行うことができます。また複数デバイスからのデータを基に、複数の機械や装置を一元的に制御することも可能です。これにより人間の介入を減らしながら、監視や制御を効率的に行うことができます。
Managing and monitoring edge devices remotely
エッジコンピューティングのメリット・課題
エッジコンピューティングの最大の利点は、データの処理と保存を高速化できることだと考えられており、結局のところ、リアルタイムアプリケーションはより多くの企業の成功に不可欠なのです。例えば、VRやAR、自律走行、工場の安全性、スマートシティ、あるいはビルオートメーションシステムなどの技術では、特に高速なデータ処理が要求されるため、エッジコンピューティングの優位性が発揮されることが期待されます。
相互接続性の向上と新たなIoTや業界特有のユースケースにより、今後10年以上にわたってエッジコンピューティングはサーバーとストレージ市場における重要な成長分野のひとつになると予想されます。例えばNVIDIAなどの企業は、ネットワークエッジにおけるデータ処理の需要が高まっていることを以前から認識しており、人工知能も組み込んだシステムモジュールの開発に取り組んでいます。Avintonのエンジニアも、NVIDIAをはじめとする大手プロバイダーの革新的な技術をベースに開発を行っています。最新技術を活用し、お客様のニーズを個別レベルで解決することを目指しています。
しかし、すべての新しい技術がそうであるように、エッジコンピューティングにも欠点があります。使用するエッジデバイスによってはセキュリティ面に不安があるのです。特に、スマートフォンなどのクラウドインスタンスに比べてセキュリティが脆弱なさまざまなデバイスを使用してデータ処理を行う場合、その傾向が顕著になります。そのため、IT専門家は、IoTデバイスがもたらす潜在的なセキュリティ脅威を認識し、それに応じてセキュリティを構築することが不可欠です。例えば、データの暗号化、持続的なアクセス制御、仮想プライベートネットワークの使用などが挙げられます。
また、IoTデバイスのコンピューティングパワーや接続要件はさまざまであるため、エッジデバイスの信頼性に影響を与える可能性があります。このため、ネットワークエッジでデータを処理するデバイスには、冗長性とフェイルオーバーの管理が必須となります。これは、1つのネットワークノードに障害が発生した場合に、すべてが正しく伝送・処理し続けるための唯一の方法です。
エッジコンピューティング環境は、多様なネットワークコンポーネントの異種混在であり、一部は異なるメーカーのもので、これらは多数のインターフェースを介して互いに通信します。当然ながら、このような分散システムのセットアップは、集中型のクラウドアーキテクチャよりも複雑なものとなります。
エッジコンピューティングは、クラウドソリューションに対して経済的なメリットを持っています。中央集権型のクラウドアーキテクチャは、ローカルのハードウェアを少なくすることが出来るため初期費用は低く抑えることが出来ますが、長期的に見た場合、エッジテクノロジーの方がかなり経済的であることが示されています。これは、高額なクラウドコンピューティングコストが大幅に削減されるためです。更に、大量のデータを扱う場合には転送されるデータの削減もコストメリットにつながります。
エッジデプロイメントの成功には、多数のエッジデバイスを管理することが重要です。しかし、非常に複雑な分散システムであるため、これらの管理は初期のシステム設定自体よりも大きな課題となります。そこで、リモートダッシュボードが役立ちます。これはクラウド上で処理され、ソフトウェアやハードウェアの状態をリアルタイムで監視し、問題があった場合には適切な警告を発する方法です。
エッジソリューションの成功には、エッジデバイスの管理、可観測性、および遠隔サポートが重要であり、これらの費用が総コストに大きな影響を与えます。エッジコンピューティングインフラストラクチャを管理し、問題に対処するためには、「データプラットフォーム」と呼ばれる統合ソリューションを使う方法があります。このようなプラットフォームは、複雑なビッグデータワークフローを処理するだけでなく、高度なAIを利用した分析を実行し、企業のセキュリティおよびデータガバナンスポリシーを強化することができます。
Avintonでは、エッジコンピューティングに関する課題に対処するために、データプラットフォームやエッジAIカメラなどのソリューションを提供しています。詳細については、当社の専用ページをご覧ください。
Various use cases of an edge AI camera
5Gはエッジコンピューティングにおいてどのような役割を果たすのか?
将来、世界のデータ量の半分は、もはや人から生成されるものでもなく、車やセンサー、各種ネットワーク機器から生成されると予測されています。そして、そのデータ量は飛躍的に増え続けています。
当社の長年のパートナーであるエリクソンは、通信業界のレポートの中で、世界のデータトラフィックが2024年までに月間136エクサバイトに増加すると推定しています。一般的なエンドユーザーは1日あたり最大1.5ギガバイト、自動車は約4テラバイトと、その時点で数倍のデータ量が差が発生すると予想されています。
5Gネットワークの構築には数十億ドルの投資が必要であり、世界中の通信事業者にとって大きな課題となっています。これは、最終消費者向けのサービスと、新しいIoTビジネスモデルのサポートの両方に関わることです。
しかし、5G技術は、こうしたスマートなサービスや製品を実現するための重要な前提条件の1つに過ぎません。エンドデバイスの大幅な増加、データ転送量の爆発的増加、最小遅延時間の必要性など、5G技術だけでは対応しきれない新たな需要が生じて始めているのです。
5Gがそのポテンシャルを最大限に発揮するためには、ネットワークの末端におけるデータ処理が不可欠です。そのため、いわゆるエッジデバイスの数は今後数年間で劇的に増加すると予想されています。
エッジコンピューティングはビジネスインテリジェンスの大きな原動力となる
これらの技術を用いた取り組みはまだ始まったばかりです。ビジネスインテリジェンスの概念や「Society 5.0」を実現するための試みは、さまざまなものがあります。
エッジコンピューティング技術の実社会への応用例として、小売業では、ショールームのビデオ監視と実際の販売データを組み合わせて、最も望ましい商品構成や顧客の需要を判断することができます。製造業では、実際に不具合や故障が発生する前に、設備の保守や修理を行うための予測分析などの利用例があります。また、スマートシティは、水道、交通、発電などのユーティリティに焦点を当てた取り組みが多く見られます。
エッジコンピューティングの実際の使用例については、以下のブログ記事をご覧ください
- スマートファクトリーとは?:エッジAIによる製造工場への貢献
- スマート農業:AIはどのように農業を変えていくのか
- スマート工場におけるマシンビジョンとエッジAIの活用方法
- 環境音認識AI:機械メンテナンスと欠陥検知自動化のゲームチェンジャー
- Society 5.0における災害予防:ビッグデータと機械学習による洪水早期警戒の実現方法
Avintonについて
Avintonでは、最先端の情報技術を駆使し、お客様に優れたソリューションを提供できる優秀なエンジニアを育成しています。私たちは、ビッグデータ、機械学習、AIにおける革新的なソリューションを開発し、様々な業界の世界中のお客様、そして社会全体にポジティブな影響を与えることを約束します。一歩一歩、Society 5.0の実現に貢献していきたいと考えています。
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