
開催の背景と目的
スペックだけではプロダクトは選ばれなくなった昨今、選ばれるプロダクトを作るにはどんな視点が必要でしょうか?
どんなに技術的に優れたものを作っていても選ばれなければ意味がありません。選ばれるにはその製品がどんな体験を届けられるか、人の心にどう届くか、という視点が大切となってきます。
Avinton ジャパンでは、プロダクトづくりの核に「ユーザー中心のものづくり」を据え、技術力に加えて“選ばれ続ける理由”を磨く取り組みを重視しています。その一環として、UXデザイン/人間中心設計(HCD)の第一人者である 島津製作所グループ長/人間中心設計推進機構 副理事長・水本 徹 先生 をお招きし、社内講演会を実施しました。
講演では、ユーザー視点に立ったモノづくりの重要性が伝わり、参加者のモノづくりの姿勢を見直すきっかけとなりました。
本記事では、そのエッセンスを皆さんにも共有いたします。
ご縁のきっかけ —— “北海道・小樽のセミナー” から始まったつながり
- 2024年秋、小樽で開かれた 日本人間工学会 北海道支部研究セミナー【学会情報】で、水本先生と交流
- 学会後に水本先生より「社内講演でHCDの最新事例を共有しましょう」とご提案をいただき実現
現場×学術 のネットワークが、新しい学びの場を生む好例となりました。
水本 徹 先生 講師プロフィール
近畿大学 非常勤講師
成安造形大学 非常勤講師
日本人間工学会 人間工学専門家認定機構 幹事
人間中心設計機構 副理事長
株式会社 島津製作所 – Shimadzu Corporation グループ長
note: https://note.com/hcd
「使いやすさ」がブランドになる時代
水本先生が最も伝えたかったメッセージ
「この製品、すごい機能だね」から
「この製品がないと困る」へ――。
いま求められているのは “機能” ではなく “体験” です。
講演の冒頭で伝えられたこのメッセージは、特に開発現場のエンジニアに突き刺さりました。「この機能、実装してみたい」「最新技術を採り入れたい」そんな技術中心の設計は魅力的ですが、技術はユーザーの感動を生む“手段”であって“目的”ではありません。
ユーザーが抱える困りごとを解決し、嬉しい体験を提供できなければプロダクトは選ばれません。
だからこそ、水本先生は “技術中心” から “人間(ユーザー)中心” への視点転換 を強調し続けました。 当たり前のようで、開発に夢中になると忘れがちなこの原則を、今一度胸に刻む必要があります。
(講演会の様子)
1 いま、なぜ人間中心設計(Human Centered Design:HCD)なのか?
人間中心設計とは何なのか、なぜ必要なのか具体例をあげて紹介してくださいました。
例えば災害のニュースをいち早く受信できるテレビを欲している人に、ものすごく画質のいいテレビを作成したところで、ユーザーのニーズに応えていることにはなりません。ユーザーの困りごとは何なのか、どうしたら解決できるのかを中心に考えることが、選ばれる製品を作るうえで必要不可欠なのだと気づかされました。
2 UX とは “利用前・中・後” を貫く 総体験
UXとは何か。水本氏はUXの定義についてユーザー特性 × 利用状況で決まると語りました。
アプリケーションを例にすると、以下のような流れの中で得られる体験こそがUXになります。
利用前:「このアプリ、便利そう!」と想像してワクワクする
利用中:実際に触って “快適” と感じる
利用後:使い終えた後に「また使いたい」と内省する
利用時間全体:数ヶ月後に「やっぱりこれが一番」と評価する
このような体験=UXを向上させるためには、ユーザーの困りごとを解決することを中心にした、人間中心設計が必要なのです。
(引用:水本様による講演会資料より)
3 UX向上の武器-人間中心設計プロセス
ではどうすればユーザーの困りごとを発見し、解決法を見つけることができるでしょうか。
水本氏はHDCサイクルを例にこれらの発見法をご教授くださいました。
1.ユーザーの利用状況を把握し
2.ユーザーの困りごと・嬉しい体験を明確にし
3.解決案をプロトタイプにし
4.実際の評価を経て改善していく
このサイクルを回すことで、製品はユーザーに寄り添ったものへと進化します。
ただし、プロセスだけでは足りません。
“この仕様は、誰が・どこで・何のために使うのか?”
この問いをチーム全体が自分ごととして持ち続けることが、UXデザインを本当の意味で育てるカギとなります。
(引用:水本様による講演会資料より)
部署を越えて視点を重ね合わせ、違いを埋めていくその対話の積み重ねが、「使いやすさ・伝わりやすさ」を向上させる本質なのです。
🔊参加者の声
・エンドユーザーの声を聞くことの重要性を再認識でき、またその方法を知れました
・人間中心設計など新しい視点が得られた
・エンジニアが人間中心設計の概念を理解してもらったら会話がしやすくなると思いました
講演を行った水本さんからのコメント

人間中心設計、UXデザイン、KJ法について、みなさんと一緒に学ぶ機会をいただきました。
「人の嬉しい体験を増やそう!」という考え方をベースに、お話や事例を共有させていただきました。
さまざまな業界の方々が熱心に耳を傾けてくださり、また鋭いご質問もたくさんいただいて、こちらも多くの学びと刺激を受けた一日でした。
人間中心設計やUXデザインの視点が、日々の企画や現場でのちょっとしたヒントになればうれしく思います。
多くの人が、便利に、そして心地よく暮らせる社会を目指して、一緒に考え、動いていけたら素敵だなと感じています。
当日ご参加くださった方はもちろん、この記事を読んで興味を持ってくださった方も、もし何かあればいつでも気軽にお声がけください。
最後にーー私たちが「選ばれ続ける」ためにーー
今回の講演は参加者にとって、人間中心設計やUXデザインの重要性を多面的に学び、ユーザー視点に立つことの本質や新たな発想法への気づきが得られた講演になったようです。
HCD/UXデザインは “デザイナーだけ”の領域 ではなく “ビジネス全体”の基盤。
Avinton の一人ひとりが ユーザーの視点に立ち、ユーザーの体験を創ることで、技術力に “体験価値” が掛け合わさり、継続的な成長とブランド信頼を生み出します。
この講演をきっかけに、私たちAvintonは「ユーザーの視点で考えること」を、開発現場だけでなくビジネス全体の姿勢へと広げていきます。
“誰かの役に立つこと”は、技術だけでは実現できない。
人の気持ちに寄り添い、対話しながら創る。そんな未来志向のものづくりを、これからもチーム全体で育てていきます。