生成AIを導入しても、なぜ業務は変わらないのか? 人とAIで進める業務再設計
生成AIやMicrosoft 365 Copilotの導入が進み、企業の課題も変化しています。
企業向けの生成AI研修やDX伴走支援では、社員がAIと協働できるようになっても、組織全体の業務プロセスは以前と変わっていない、というケースがあります。
例えば、生成AIによって資料作成の時間が半分になったとしても、そもそもその資料は本当に必要なのでしょうか。
報告書を短時間で作成できても、承認までに何日もかかる仕組みが変わらなければ、業務全体のスピードは改善しません。
実際に、企業からは次のようなご相談をいただきます。
- 「社員はCopilotを導入し始めたが、組織全体の業務変革につながっていない」
- 「プロンプト、自動化、AIエージェントをどう組み合わせればよいのか分からない」
- 「現場から改善案は出るものの、どの業務から着手すべきか判断できない」
これまで企業の関心は「生成AIで何ができるのか」に向いていました。
今、問われているのは「人とAIの協働を前提に、仕事の進め方をどう変えるのか」です。
生成AIの導入と、業務変革は同じではない
生成AIによるメール作成、会議の要約、資料作成などは、個人の作業時間の短縮につながります。
しかし、部門間の連携や意思決定のプロセスが変わらなければ、組織全体の生産性向上には限界があります。
IPAの「DX動向2025」では、日本企業は個別業務の最適化に取り組む割合が高い一方、米国とドイツでは全社的な業務プロセスの最適化に取り組む割合が高いと報告されています。
また「DX動向2026」でも、AI導入が広がる一方、効果は業務効率化や迅速化が中心であり、価値創出や企業変革への展開には課題が残ることが示されています。
企業が検討すべきことは、作業時間の短縮だけではありません。
- その業務は、何のために行っているのか
- どの業務や顧客体験を変えたいのか
- 改善の効果を何によって測るのか
- 生まれた時間を、どの仕事に振り向けるのか
これらを明確にしないまま操作研修やシステム導入を進めても、業務変革にはつながりません。
AIに任せる前に、業務を工程単位で考える
企業が選べる方法は、プロンプト、Copilot、ルールに基づく自動化、AIエージェント、システム開発など、多岐にわたります。
それぞれに得意な処理や適した場面があり、業務の内容によって組み合わせる必要があります。
例えば「契約更新管理」という業務には、次の工程があります。
- 契約書から更新日を確認する
- 期限が近い契約を抽出する
- 担当者へ通知する
- 更新条件や取引状況を確認する
- 更新するかどうかを判断する
- 責任者が承認する
期限の抽出や通知は、ルールに基づく自動化が適しています。契約内容の要約には、Copilotや生成AIの力を借りられます。
一方、取引を継続するかという判断や最終承認には、人の知識や取引先との関係性、責任が伴います。
業務全体を一括してAIに任せるのではなく、工程ごとに適切な方法を選び、人が判断する領域を設計します。
不要な仕事を速くしても、変革にはならない
AIとの協働を検討する前に、現在の業務そのものを見直す必要があります。
企業では、長年の運用のなかで次のような業務が残っていることがあります。
- 同じ情報を複数のシステムへ入力している
- ほとんど参照されない資料を毎月作成している
- 判断基準が曖昧で、確認や差し戻しを繰り返している
- 承認者が多く、作業より待ち時間が長い
- 特定の担当者の経験や記憶に依存している
こうした状態をそのまま自動化すると、不要な業務や複雑な手続きを残したまま、処理速度だけが上がることになります。
そこで参考になるのが、業務改善の基本的な考え方であるECRSです。
ECRSとは?
- E:Eliminate(排除)― なくせないか
- C:Combine(結合)― まとめられないか
- R:Rearrange(入れ替え)― 順序や担当を変えられないか
- S:Simplify(簡素化)― もっと簡単にできないか
まず不要な業務をなくし、次にまとめる、順序を変える、簡単にするという順番で見直します。
そのうえで、残った工程に対して人とAIの協働や自動化を検討します。

AIエージェントの前に、データと判断基準を整える
AIエージェントは、複数の情報源を参照し、複数の工程を進める仕組みへと発展しています。
しかし、社内情報が分散していたり、最新版が明確でなかったりすると、安定した処理が難しくなります。
導入前に確認したいのは、次の項目です。
- 信頼できる情報源が決まっているか
- データの形式や更新ルールが整理されているか
- アクセス権限と情報管理のルールが明確か
- 判断基準や例外対応が言語化されているか
- 人が確認・承認する工程が定義されているか
Microsoftの「2026 Work Trend Index」でも、AIやエージェントを既存業務へ追加するだけでなく、仕事そのものを再設計する必要性が示されています。
AIエージェントの性能だけで業務品質が決まるわけではありません。データの品質、業務ルール、判断基準も大きく影響します。
現場を知る人が、変革の起点になる
業務の目的、例外対応、暗黙の判断、顧客との関係性を最も理解しているのは、日々その仕事に向き合っている現場の人たちです。
DX推進部門や情報システム部門だけで、すべての業務を再設計することはできません。
現場の担当者自身が業務を可視化し、課題を発見し、改善方法を検討できる環境が必要です。
そのために、全員がAIエンジニアになる必要はありません。
業務を理解している人が、AIと共に改善方法を考え、必要に応じて専門部門やエンジニアと協働できれば、現場から変革を進められます。
伴走支援によって、現場が自走し始めた事例
Avintonジャパンでは、セブン銀行グループの株式会社バンク・ビジネスファクトリー様に対し、Power AppsやPower BIを取り入れた約5か月間のDX伴走支援を行いました。
参加したのは、BIやローコード開発の経験がほとんどなかった現場のメンバーです。
支援では、操作方法を教えることに加え、「誰のために、何を改善するのか」を確認しながら、各自が業務課題を整理し、改善策を形にすることを重視しました。
その結果、メンバーは自らPower Appsによる業務アプリや、Power BIによるダッシュボードを構築。
支援終了後には、自発的な勉強会や業務効率化チームも生まれました。
技術を習得しただけでなく、現場のメンバーが自ら業務改善に取り組むようになったことが、このプロジェクトの成果です。
人とAIの協働で、人の可能性を広げる
定型的な情報収集や転記、集計、下書きなどに費やしていた時間を減らすことで、人は顧客との対話、創造的な挑戦、意思決定、人材育成、新たな価値の創出に、より多くの時間を割くことができます。
一方で、削減した時間の行き先を決めなければ、単なるコスト削減で終わる可能性もあります。
「AIに何を任せるか」と同時に、「人がどのような仕事に時間を振り向けるか」を考える必要があります。
業務再設計は、人の仕事をAIに置き換えるためだけの取り組みではありません。
人とAIがそれぞれの強みを発揮し、社員一人ひとりが新しい仕事や役割に挑戦できる環境をつくることにもつながります。

Avintonジャパンの企業向け研修・伴走支援
Avintonジャパンでは、生成AIやMicrosoft 365 Copilotの操作研修にとどまらず、業務の可視化、ECRSによる見直し、人とAIの役割設計までを含めた研修・ワークショップを提供しています。
各企業の実際の業務を題材に、業務改善候補の整理、優先順位付け、役割分担、小規模実証の計画づくりなどに取り組みます。
研修で学んだ内容を実務へつなげ、現場が自ら改善に取り組める体制づくりを支援します。
自社の業務から、変革の可能性を見つけませんか?
「Copilotを導入したものの、組織全体の業務変革につながっていない」
「どの業務から改善すればよいか分からない」
「現場主導で業務改善を進めたい」
Avintonジャパンでは、こうした課題に対して、研修から業務再設計ワークショップ、DX伴走支援まで、企業ごとの状況に合わせてご提案しています。
▼自社にあった生成AI研修・伴走支援について相談する
よくある質問
生成AI研修とCopilot研修の違いは何ですか?
Copilot研修では、Word、Excel、PowerPoint、Outlook、Teamsなど、Microsoft 365上の具体的な業務を中心に扱います。
業務変革を目的とする場合は、操作方法だけでなく、業務プロセスの見直しと組み合わせることが重要です。
AIエージェントに適した業務はどのような業務ですか?
ただし、情報へのアクセス権限、人による確認、例外処理、誤りが起きた場合の影響も事前に確認する必要があります。
業務改善では、なぜECRSを先に考えるのですか?
不要な業務や重複した手続きを残したまま自動化しないためです。
業務自体の必要性を見直してから、人とAIの協働方法を検討します。
AIとの協働による効果は、どのように測定しますか?
導入前に目的と基準値を決め、小規模実証で効果を検証します。
人の判断を残すべき業務は何ですか?
高度な交渉や感情理解が必要な業務、例外が多い業務、誤りが人事・品質・法務・安全に重大な影響を及ぼす業務などです。
AIの提案を参考にしながら、人が確認・判断・承認し、責任を持つ仕組みを設計します。
参考資料
▼独立行政法人情報処理推進機構(IPA)「DX動向2025」
https://www.ipa.go.jp/digital/chousa/dx-trend/dx-trend-2025.html
▼独立行政法人情報処理推進機構(IPA)「DX動向2026―広がるAI導入、DXは変われるか」
https://www.ipa.go.jp/digital/chousa/dx-trend/dx-trend-2026.html
▼Microsoft 「2026 Work Trend Index」
https://www.microsoft.com/en-us/worklab/work-trend-index/agents-human-agency-and-the-opportunity-for-every-organization




